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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)140号 決定

抗告人 株式会社東京鍛工所

相手方 天谷時雄

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は横浜地方裁判所が同庁昭和五二年(ル)第一九〇号・昭和五二年(ヲ)第二二六号債権差押及び転付命令申請事件について、「昭和五二年三月三日なした債権差押及び転付命令を取消す。相手方の債権差押及び転付命令の申立を却下する。抗告費用は相手方の負担とする。」との裁判を求め、その理由とするところは別紙に記載したとおりである。

記録によると、相手方(債権者)代理人は、抗告人(債務者)に対する横浜地方裁判所昭和四九年(ワ)第一、一九八号損害賠償請求事件の仮執行宣言付判決に基づき、昭和五二年三月三日同裁判所に抗告人(債務者)の第三債務者株式会社日本興業銀行に対する預金等の債権について、債権差押転付命令の申請をなし、同裁判所は、同日審尋を経ないで右命令を発し、右命令は同月四日午前一〇時頃第三債務者に、同月五日午前一二時に抗告人(債務者)に、それぞれ送達されたこと、一方抗告人(債務者)は、前記判決に対し東京高等裁判所に控訴を提起し、同月二日右判決に基づく仮執行につき強制執行停止決定を得て同決定は、同月三日午前一一時相手方(債権者)本人に送達され(本件差押転付命令申請時に、相手方(債権者)本人または代理人が右停止決定を知つていたか否かは明らかではない)、同月四日午後四時四〇分執行裁判所(横浜地方裁判所民事三部)に提出されたこと、以上の事実が認められる。

従つて右債権差押転付命令が、その債務名義(である前記判決)についての強制執行停止決定がなされた後に発せられたものであることは抗告人の主張のとおりであるが、執行機関は、停止決定が提出されない限り、その債務名義に基づく執行をすることができるのであつて、何ら違法はない。

また、抗告人が右停止決定の正本を執行裁判所に提出した翌日に債務者(抗告人)に右差押転付命令が送達されたことも抗告人の主張するとおりである。

転付命令は、民訴法六〇一条が五九八条三項を準用していないので、その効力発生には、六〇〇条の準用する五九八条二項により債務者に対する送達も必要と解するのが相当である(大審院昭和三年一〇月二日決定、集七巻一一号七七三頁)が、前記停止決定の正本を執行裁判所に提出した場合においても、執行裁判所は、それ以後強制執行を続行すべきではないし、場合により既になした強制執行を取消すべきであるが、執行裁判所が停止の措置をとらず、執行手続を続行した場合でも、その後の執行手続が当然に無効となるものではないものと解すべきところ、前記のとおり本件転付命令は、執行停止決定正本の提出があつたにもかかわらず、本件抗告人に送達されたのであるから、第三債務者に対する債務者の債権は直ちに差押債権者に移付され、その結果として債務者及び第三債務者間の債権関係は消滅し、その債権額に相当する差押債権者と債務者との間の債権について弁済の効力を生じ、これによつて執行債権者は執行債権の満足を得、その結果右強制執行はその目的を達して終了したものというべく、これに対しては、もはや不服申立ては許されなくなつたものと解すべきである。

そして、審尋を経ないで発せられた債権差押及び転付命令に対して、不服のある利害関係人が直ちに即時抗告をなすことはできないものと解するので、本件抗告は、不適法である。よつてこれを却下すべく、抗告費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 岡松行雄 園田治 木村輝武)

(別紙)

抗告の理由

一、相手方は抗告人に対する横浜地方裁判所昭和四九年(ワ)第一、一九八号損害賠償請求事件において昭和五二年二月二八日仮執行付判決を得、同判決は翌昭和五二年三月一日抗告人に送達されたので、抗告人は同日東京高等裁判所に対し控訴申立による強制執行停止の申立をなし、同裁判所は同庁昭和五二(ウ)第一八一号事件として審理した結果、抗告人に八分利国庫債券総額面金五〇〇万円の保証を立てさせたうえ昭和五二年三月二日前記判決に基づく強制執行は本案控訴事件の判決があるまでこれを停止する旨の決定をなし、同決定は同年同月三日相手方に送達された。

二、相手方は昭和五二年三月三日横浜地方裁判所に対し、前記債務名義に基づく債権の弁済にあてるため、抗告人がその取引銀行である株式会社日本興業銀行に対して有する債権につき債権差押および転付命令の申請をなし、同裁判所は昭和五二年(ル)第一九〇号、同年(ヲ)第二二六号事件として利害関係人を審尋することなく審理した結果、同日相手方の申請を容れて債権差押および転付命令を発し、同決定は昭和五二年三月四日第三債務者株式会社日本興業銀行に送達された。そこで抗告人は同日原裁判所に対し、強制執行停止決定の正本を提出した。その翌日抗告人に対し前記債権差押および転付命令が送達された。

三、よつて、右債権差押および転付命令は、相手方の前記債務名義による強制執行停止決定がなされた後に発せられた決定であり、かつ、抗告人が強制執行停止決定の正本を原裁判所に提出した翌日に抗告人に送達された違法な決定であるからその取消を求める。

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